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「メディア生活フォーラム2019」:新しい「メディア満足」のつくり方 接触400分時代のメディア意識と行動
REPORT

博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所が主催する「メディア生活フォーラム2019」。令和初開催となった今回のテーマは、「新しい『メディア満足』のつくり方」。情報過多と言われる現代において、生活者はどういう気持ちでメディアに接しており、メディアの送り手は生活者が求める新しい「メディア満足」をどのようにつくっていくべきなのでしょうか。
第一部では最新の調査結果とともに生活者のインサイトに迫り、第二部ではメディア生活における「新しい満足」をいかに捉えるべきかについて、二つのパネルディスカッションを実施。本稿では最新の「メディア定点調査2019」、「メディアライフ密着調査2019」、「メディア接触スタイル把握調査」を発表した第一部についてレポートします。

■「メディア定点調査2019」時系列分析より

まずは上席研究員新美妙子から、2006年以降毎年行っている「メディア定点調査」の最新の結果を報告。メディア総接触時間(東京)の時系列推移で、総接触時間が411.6分という、初の400分台を記録したことを伝えました。「この数字をけん引したのは携帯・スマホと、テレビです。携帯・スマホは117.6分で120分に近づく勢い。ここ2年ほど減少していたテレビは、9.9分と大きく増加しました」と説明。昨年初めて3分の1を超えたモバイル(タブレットと携帯・スマホを合わせた時間)が、今年はさらに2ポイント増加しており、モバイルシフトが相変わらず続いていることも指摘しました。

続いて、全部で42項目あるメディアイメージについて紹介。全体の半数を携帯・スマホに関するイメージがTOPを占拠する中、「自分にとってなくてはならない」「利用する時間を減らしたい」というイメージに注目してほしいと新美。全体で約7割が携帯・スマホはなくてはならないとし、なおかつ全体で約4割が利用する時間を減らしたいと回答しており、「生活者の相反する気持ちが見えてきた」と説明しました。

さらに2016年から新たに調査を始めた生活者の意識について、「情報やコンテンツは無料で十分」の項目がこの3年でもっとも減少していることを指しながら、「情報量が多すぎるため、たとえ有料であっても満足できる情報・コンテンツを選びたいという意識が見え隠れしている」と述べました。また「スマホを寝床に持ち込むことがある」「スマホで映画やテレビを見ることが増えた」などの回答が多いことから、新しいメディア行動が生まれているとも解説。これらを受け、新美は「生活者がメディア生活を再考しているのではないでしょうか」としました。

■生活者に生まれた新たな気づきと行動の兆し「メディアライフ密着調査2019」

続いて、上席研究員の野田絵美による、自身が生活者に密着して行った定性調査についての報告です。調査のステップとして、まずは20~40代の男女20名にインタビューし、その中から新たな兆しを感じた3名に密着したと説明しました。インタビューでは確かに生活者がメディア生活を再考し始めていることを実感したと言い、その要因が2018年9月にiPhoneのiOS12に追加された「スクリーンタイム機能」にあり、これまで無意識に使ってきたスマホについて生活者が利用時間を自覚し始めたからだと指摘。インタビュー対象者である20代女性が一日6時間17分もスマホに接触しており、数字を見て驚いていたことなどを紹介しました。ほかにも「無意識なので何を見ているか自覚がない」「大人の依存症だと思う」などのインタビューの言葉を紹介しながら、生活者の意識が「無意識から自覚」へと大きく変化しつつあり、「接触時間が伸びているなら、少しでも満足できる時間にしたいと思い始めている」と述べました。

では生活者は実際どのようにして満足を得ようとしているのか。まずは21歳の男子大学生Cさんに密着調査した様子について、キーワードを「はずすリスク」とし、取材した映像を紹介しました。
「Cさんは起床してまずスマホの通知をチェック。次にニュース、SNSを見ながら、スマートスピーカーでは音楽を鳴らしながら耳も起こします。リビングで朝食を取りながら、気になるコーナーのときはテレビに注目し、別のコーナーに変わると手元のスマホでゲームを始めます。続く余暇時間では、スマートスピーカーでお笑い芸人のラジオを聴きながら、タブレットで初めて見るバラエティ番組、手元のスマホでは以前見たことがある別のバラエティ番組を見ている。これは彼にとって鉄板の神回だそうで、タブレットの初見の番組で面白いところが来るまでは、手元のコンテンツに集中しています。Cさんは『つねにどちらかでは面白い瞬間を見ていたい』と言います」と紹介。そして就寝前にはスマホを閉じ、生放送のラジオを聴いていたと説明しました。
これらの行動から、2016年のメディアライフ密着調査でみられた「マルチスクリーン」でただ複数のコンテンツを流して散漫に見ていたときと異なり、Cさんは「はずすリスク」を避け、つねに面白い時間にするために戦略的にメディアを使い分け、「メディア満足」を求めていることがわかると解説しました。

続いては30代の子育てママNさんです。キーワードは「少しも無駄なし」。子どもの就寝後にようやく訪れた一人の時間、どのように「メディア満足」を求めているかを紹介します。「テレビでは動画配信サービスで選んだ映画が流れていて、画面がロード中になるとすぐにスマホを見る。オープニングシーンの間にレビューを検索しています」と野田。Nさんは「限られた時間なので、見終わったときにつまらなかったと思いたくない」ため、ネタバレしてまで検索し、見る価値があるかを確認しているのだそうです。

最後に一人暮らしの20代女性会社員Kさん。「衝動スマホと受け身回避」がキーワードです。「通勤時間は紙面ビューアーを使って新聞の電子版をチェック。帰宅後は少し違う世界観を味わいたいので、海外ドラマをスマホで流しながら料理をします。テレビはずっとついていて、手元ではインターネットテレビや、途中でSNSを見ることもあるそうです」と紹介。Kさんは「テレビはぱっと拾える情報源で、手元のインターネットテレビは自分の嗜好により寄せたメディア。暇つぶしのいいとこどりです」と語ります。また、就寝前はスマホを閉じ、女性ファッション誌をじっくり読みます。「雑誌には好みではない情報もあるけれど、意外といいなという発見もある」からだそうです。Kさんは、「テレビを見たりスマホを見たりと、衝動的になれる時間を楽しみたい」とし、「通知が来ると気になってしまうので、オフにしておき、自分のタイミングで見るようにしている」そうで、その時々で、自分の気分をメディアが補ってくれるのが、もっとも幸福度が高いのではないかと野田は解説しました。

野田は3人から見えてきた新しい「メディア満足」の共通点を、まず「リスクには保険」とし、時間を無駄にするリスクを回避し、確実に満足できるようにメディアを使い分けていると説明。次に「衝動には没入」とし、スマホで情報に触れたい衝動は否定せず、没入する時間も確保することでバランスを取っていると分析。最後に「受け身には主導権」。どうしてもSNSのプッシュ通知などが横入りしてくるが、それに対して受け身にならず、自分の生活や気分に合わせて主導権を持ってコンテンツを選んでいるとし、これら3つが「新しい『メディア満足』のつくりかた」であると結論づけました。そして、「1日の大半を接しているメディア時間をよりよくすることは、つまりはいい一日にする近道であることを生活者は気付いています」と述べました。

■“デジタルは従来の時間を侵食していない”「メディア接触スタイル把握調査」

最後に再び新美から、メディア接触が多様化するなか、生活者がどのようなサービスやデバイスでメディアコンテンツに接触したかを把握した「メディア接触スタイル把握調査」の結果を紹介。メディアコンテンツの接触の仕方について「従来のみ」「デジタルのみ」「従来・デジタル両方」の3つのスタイルに分け、それぞれの人がどのように接触しているかを報告しました。

それによるとテレビコンテンツは「従来のみ」がもっとも多くて7割、「デジタルのみ」はわずか2.2%。ラジオは「従来のみ」が4割、「従来・デジタル両方」、「デジタルのみ」が3割前後で、3つのスタイルが拮抗。新聞は「デジタルのみ」が4割以上で、「従来・デジタル両方」と合わせると7割以上。雑誌は「従来のみ」が7割、「デジタルのみ」が2割となったことを解説しました。また、スタイル別の接触時間量についても紹介。新美は「いずれのメディアも、『従来・デジタル両方』の人の時間が一番長い」と指摘。さらに内訳を見ると、「従来・デジタル両方」の人の従来の時間と、「従来のみ」の人の時間がほぼ同じ結果になっており、“デジタルは従来の時間を侵食しているわけではない”ことが分かったと述べました。

また、そのときの状況や気分を思い浮かべながら、それぞれのデバイス別の時間がどんな時間かを聞いた自由回答を紹介。例えば、30代専業主婦はテレビコンテンツに対して、テレビ受像機で見る時間は「ひとときの癒し」、パソコンで見る時間は「作業しながらの片手間の時間」、タブレットで見る時間は「気楽に見られる時間」、スマホで見る時間は「それでしか見られない時の最終手段」と感じているといった回答例を紹介。生活者のメディア接触スタイルは多様化しており、情報量が多いことが当たり前の時代、デバイスによって「メディア満足」が異なることがわかったと解説しました。

最後に新美は、「本日は、メディア接触400分時代においての生活者のメディア生活再考の意識、『メディア満足』で生活を再設計しようとする生活者の密着映像、デバイスによって異なる『メディア満足』について、の3つをご覧いただきました。これらに通底しているのは、『世の中の情報量が多すぎる』と感じている生活者はメディア接触時間を増やしたいと思っているわけではないということです。生活者の欲求は、一日の中での “いい時間”を増やしたいということなのです」と述べ、第一部の調査結果発表パートを締めくくりました。

 

■プロフィール 

新美 妙子
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所
1989年博報堂入社。メディアプラナー、メディアマーケターとしてメディアの価値研究、新聞広告効果測定の業界標準プラットフォーム構築などに従事。2013年4月より現職。メディア定点調査や各種定性調査など生活者のメディア行動を研究している。「広告ビジネスに関わる人のメディアガイド2015」(宣伝会議) 編集長。

 

野田 絵美
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
2003年、博報堂入社。マーケティングプラナーとして、食品やトイレタリー、自動車など消費財から耐久財まで幅広く、得意先企業のブランディング、商品開発、コミュニケーション戦略立案に携わる。生活密着やインタビューなど様々な調査を通じて、生活者の行動の裏にあるインサイトを探るのが得意。
2017年4月より現職。生活者のメディア生活の動向を研究する。

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