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【セミナーレポート】情報体験と生活体験の融合 ~イノベーションサロン Vol.3~
2019年9月中旬、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所が主催する「イノベーションサロン」の第3回が開催されました。
ここ最近発展を続ける5G、AI、クラウドなどの技術基盤は、メディア、コンテンツ、コミュニティを生活者に提供する情報産業の在り方を変えていっています。また、D2Cブランドやサブスクリプションモデルといった、従来の製造・流通を通じて売るモデルにおさまらない新しい動きも生活者に浸透してきています。
本稿では、そのようなテクノロジーの進化による情報体験と生活体験の変化のきざしを、海外事例や、今年行った生活者調査を交えながら、メディア環境研究所の加藤薫、斎藤葵、山本泰士が講演した様子をレポートします。
■各国で期待されている「次の生活」
まずは加藤から、今回のイノベーションサロンのテーマ「情報体験と生活体験の融合」について解説がありました。ここ数年、メディア環境研究所がキーワードとして挙げている「情報のデジタル化から、生活のデジタル化へ」について、生活者をとりまく様々なモノや空間がデジタル化していく様子に注目し、どのようなメディア環境の変化が起こるか考察してきたなか、「テクノロジーによってメディアによる情報体験と、生活サービスの体験は融合していくのではないか」という仮説に至ったことを話しました。
デジタル化された情報はスマートフォンなどのデバイス内にとどまらず、家電や車など生活における身近なものがデジタルデバイス化していくことで、情報を知る接点そのものが拡大していき、生活者が行動する場に直接情報が届けられ、「買う、移動する、使う」といった生活サービスの体験は、デジタル情報を受け取る体験と融合していくのではと語りました。
続いて、今年7月に発表した「メディアイノベーション調査2019」の結果について。日本(東京)、米国(L.A.)、中国(上海)、タイ(バンコク)の4か国4都市において、次世代のメディア環境に連携すると考えられる「生活を変える81の新しいサービス」についての意識調査の結果を紹介しました。(プレスリリースはこちら)
そのなかで、各国の未来生活イノベーター(※)が強く興味を示した“生活の在り方が変わっていきそうな領域”を紹介。日本は音声や遠隔操作で制御するスマート家電やAIロボットなどの「家」、米国は移動型店舗や自動運転車といった「移動」、中国はVRを活用した医療サービスなどの「健康」、タイは外食文化であることから家での手軽な自動調理といった「食」への関心が高く、各国の傾向が分かれていると解説しました。
※未来生活イノベーター
本調査において「科学技術は人間の生活や社会にとって重要なものだ」「常に新しいテクノロジーを使った商品やサービスを取り入れたいと思っている」など16の意識項目の内12項目以上について「とてもそう思う」と回答した層を各国で抽出。様々なイノベーションに対する受容の高い層として「未来生活イノベーター」と名付けています。
■「欲実直結」なサービスの3つの特徴
さらに、生活シーンのデジタル化が進み、多様な接点が生まれていくなか、これからのビジネスに重要な視点として「欲実直結」というキーワードを挙げました。情報体験を通じて、顕在化していない生活者の欲求を、「買える」「できる」「行ける」などの“実行”と直結させることがこれからのビジネスにおいて重要な視点である可能性を示唆しました。
その「欲実直結」の3つの特徴について、事例を交えて山本が解説していきます。
特徴の1つ目は、『「したい」をコンテンツから掘り出し、すぐ「できる」をお膳立て』しているサービス。食材の購入・配送・店頭ピックアップを可能にした動画レシピメディアや、ブログ発ECコスメブランドによるリアル店舗を紹介。
2つ目は、『「したい」をヒト型対話で掘り出し「できる」をお膳立て』しているサービス。ショートメッセージで生活者とパーソナルにつながり栄養飲料を売る企業や、スタッフとの問診や写真診断で肌タイプ分析をして商品提案するスキンケアEC企業など。
特徴の3つ目は、『「したい」を「できる」装置をつくる』サービス。人気トレーナーのライブ配信が見られる映像デバイス付きのエアロバイクや、レシピを表示しARで調理手順をナビするオーブンレンジといった事例を紹介しました。
■欲実直結につながる“+able”なサービス
続いて、斎藤からは中国や米国の新興企業のサービスのなかから、欲実直結につながる“+able”(~できる)なサービスを、事業者視点で分析し解説していきます。
まずは“+ableなマンション”として、「家や街と会話できる」中国企業によるスマートマンション。会話だけで室内の家具家電を制御でき、マンション内外のつながりやコミュニティも形成してくれるマンションです。
ほかにも「呼び寄せることができる」無人小型販売車、「診療してくれる」薬自販機、「行き先を提案してくれる」ロボットタクシー、「行動に情報付与してくれる」XRクラウド&XRゴーグル、といった事例を挙げていき、これからは自社のもつサービスや事業を、スマートフォンやスマート家電などの新しい接点を通した「+ableなサービス」が、欲実直結な暮らしを実現させるのではと話しました。
その後、社内外からの参加者によるグループディスカッションが行われ、「自社が+ableなサービスをつくるとしたらどんなことが可能か」をテーマに熱い議論が展開され、イノベーションサロンは閉会となりました。
11月にはメディア環境研究所主催の「メディアイノベーションフォーラム」が開催予定です。今回ご紹介した「欲実直結」「+able」をキーワードに、生活者の新しい生活体験の兆しをご紹介していきます。本サイトでもイベントレポートを発信予定です。
■プロフィール
加藤 薫
博報堂DYメディアパートナーズ
メディア環境研究所 主席研究員
1999年博報堂入社。菓子メーカー・ゲームメーカーの担当営業を経て、2008年より現職。生活者調査、テクノロジー系カンファレンス取材、メディアビジネスプレイヤーへのヒアリングなどの活動をベースに、これから先のメディア環境についての洞察と発信を行っている。2018年4月より東京大学情報学環 非常勤講師。
斎藤 葵
博報堂DYメディアパートナーズ
メディア環境研究所 上席研究員
2002年博報堂入社。雑誌・出版ビジネスを中心としたメディアプロデューサーを経て2016年より現職。現在は国内外のテクノロジー、カンファレンス取材や、メディア・デジタルマーケティング業界のプレイヤーとのディスカッションを通じて、生活を変えるテクノロジーによる新しいメディアビジネスの可能性を探っている。中国のテクノロジー・企業情報に精通。
山本 泰士
博報堂 買物研究所 ストラテジックプラニングディレクター
2003年東京大学教育学部卒、同年、博報堂入社。マーケティングプランナーとしてコミュニケーションプランニングを担当。07年より、こどもごころ製作所プロジェクトに参加し、クラヤミ食堂など体験型コンテンツの企画、運営を担当。11年から生活総合研究所に異動し、生活者の未来洞察に従事。2015年より現職。「欲求流去」「選べない買物の悲劇」等を発表。複雑化する情報・購買環境下における買物行動の未来を洞察している。暗闇で良音に包まれる「クラヤミレコード」など新コンテンツ体験開発にもチャレンジしている。
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