全世界から集まるクリエイティブ。
各部門の審査員たちは、それぞれ審査基準を設け、細かく審査を行う。
2016年、その頂点に立ったのは、どんな作品なのか。
グランプリを中心に審査員の講評とあわせて見ていこう。
※『ブレーン9月号』(宣伝会議)より、イノベーション部門のみ抜粋しています。
■イノベーション部門■
審査の基準は、「Would I invest?」
三神 正樹 博報堂常務執行役員/博報堂DYメディアパートナーズ常務執行役員
グランプリを受賞した「Google AlphaGo」は、以前から話題になっていたものです。なぜライオンズイノベーションのグランプリなのか、納得がいかない人もいるかもしれません。正直なところ、僕たち9名の審査員も「スタートアップ企業のピッチとは違う、カンヌライオンズにおけるイノベーションは何だ?」と悩み、現地での審査以前から議論を重ねてきました。
その中で指針の一つとして掲げられたのが、「Would I invest?(自分は投資をしたいか)」。ベンチャーキャピタリストとして投資するのではなく、個人としてどうなのかという問いです。もう一つはサスティナビリティとスケーラビリティ。これもベンチャーキャピタリストがよく使う言葉ですが、それよりももっと広い意味を指しています。世界に広がっていく、局所的に終わらない仕掛け。さらには、それはちゃんと持続するのかどうか。こうした観点から事前審査を行い、ショートリストのプレゼンに臨みました。
「AlphaGo」が選ばれた最大の理由は、INTUITION(直感)を持っていたこと。従来の人工知能の多くは「ブルートフォースアプローチ」という手法で目的に対し、すべての可能性をロジカルに探し出す。ところが、囲碁の手は全宇宙の原子の数よりも多いため、従来の方法でのアプローチも可能だけれど、はたしていつ終わるかわからない。でも、実は人間はその作業を自然な形で進めている。なぜそれができるのかと言えば、人間は直感を働かせ、その場その場でものごとを判断することができるからです。
囲碁で言えば、棋士は通常過去の経験や知識などから打つ手を考えますが、ある局面では直感で勝負を進める。「AlphaGo」はありとあらゆる棋譜のデータを把握した上で、棋士の直感に近い状況分析ができる。そこがこれまでの人工知能とは大きく異なる点でした。そして、INTUITIONとはロジックでは説明しきれないもの、まさにクリエイティビティに通じるものです。「AlphaGo」を通じて、僕たちはクリエイティビティと機械との新たな関係を考え、これを今後どう広げていくかを想像する機会を得ました。テクノロジーが素晴らしいという以前に、クリエイティビティにおいて新しい挑戦をしている点が、カンヌライオンズにおいてふさわしいという判断でした。
イノベーション部門の審査を終えて感じたのは、これは広告会社だけでも、広告主企業だけでもできるものではない。時には外部の専門性のあるパートナーも一緒になり、チームで同じ土俵に立って進めていくことが重要であるということ。特に「On Brand」のカテゴリーでは広告会社ができることがあるはずなので、きちんと向き合っていくべきであると感じました。
★グランプリ作品★
Google Deep Mind「AlphaGo」
Google Deep Mind London(イギリス)
グーグルのグループ会社で人工知能を研究するGoogle Deep Mindによって開発されたコンピュータ囲碁プログラム「AlphaGo」が受賞。人工知能の力で世界最高峰の囲碁棋士の一人、イ・セドル氏に4勝1敗で勝ち越してニュースになった。
※『ブレーン9月号』(宣伝会議)より転載
三神 正樹
博報堂常務執行役員/博報堂DYメディアパートナーズ常務執行役員
1982年博報堂入社。インターネットの黎明期から、中心的存在の一人として博報堂のデジタルビジネスを牽引。2009年にエンゲージメントビジネス局長。2011年博報堂執行役員兼博報堂DYメディアパートナーズ執行役員に就任し、データドリブンマーケティングなどに取り組む。カンヌ2013(メディア部門)、アドフェスト2014(メディア&エフェクティブ部門)、スパイクスアジア2015(メディア部門)、Facebook Award2015、D&AD2016(メディア部門)、カンヌ2016(イノベーション部門)で審査員。