その土地固有の魅力を新たなストーリーとして紡ぎ、食文化を通じて発信する地域振興プロジェクト『PROJECT DINING OUT』が、新たな取り組みとして動画コンテンツ『DINING OUT FILMS』を立ち上げました。なぜ今映像なのか?動画を利用した新しい取り組みとは?PROJECT DINING OUT メディアプロデューサーの吉野氏に伺いました。

Dining Out 2

日本を五感で楽しみ堪能できる「DINING OUT」

−− 大々的に宣伝をしていないにも関わらず毎回チケットが完売してしまうDINING OUTとは、どのようなイベントなのでしょうか。

端的に説明すると期間限定の「野外レストラン」です。開催場所や開催日時、開催期間も毎回異なります。日本でも指折りのシェフが腕をふるい、開催期間が終わると消えてしまう特別なレストランです。

日本には、まだまだ観光地として顕在化していない地域や自然、文化が多くあります。それぞれに違った魅力があるにも関わらず、地元の方はそのことに気が付いてないことも往々としてあります。そこで、僕たち外部の人間の視点と地域の人たちがタッグを組むことで新しい光をあてることができれば、隠れていた魅力を引き出せるのではないかと考えて取り組んでいます。

−− なぜ、「食」にフィーチャーしたのでしょうか?

イベントを開催するにあたり、その地域の魅力を最大限に表現できるものは何かと掘り下げていった時に、辿り着いた答えが土地固有の“食文化”でした。食文化は、その土地の歴史や文化、自然が集約されています。くわえて、海外へも発信しやすいコンテンツだと思いました。“おいしい”は万国共通ですからね。

また、料理を表現するにあたりシェフというクリエイターが介在できることも魅力だと思いました。海外では日本人シェフの調理に対する細やかさやクリエーションが非常に高く評価されています。フランスのレストランでは日本人シェフが在籍しているか、していないかがクオリティーの基準になるといわれているほどです。

日本のトップシェフというクリエイターと地域独特の食文化を掛け合わせることで素晴らしい科学反応が起き、オリジナリティーが高いだけではなくグローバルにも通用するイベントになると思いました。

Dining Out 1

−− 今まで6回開催されていますが、石垣島ではガジュマルの樹の下、佐渡では神社と、レストランがオープンする場所が実に様々だと思いました。開催地はどのように決めているのですか?

ロケハンを組み、地元の方と一緒にひたすら歩き回って開催地を決定しています。様々な場所に実際に足を運ぶなかで感じたのは、地元の方はあまり興味をもっていない場所が、僕たち外部の人間は素晴らしい場所だと思うことも多いということでした。例えば、佐渡で開催したDINING OUTでアミューズブーシュの会場になったお寺は、地元では観光客を入れるという認識があまりないような場所でした。でも、僕たちは手つかずの素朴な感じや苔が生えた階段に、情緒や神秘的な雰囲気を感じたのです。地元の方には新たな観光名所になると説得しました。

僕らが一方的に、この場所でやりたいと決めるのではなく、地元の方と会話を重ねながらその土地の良さを表現できる場所を選んでいます。だからこそ、地元の協力が不可欠です。イベントの際も、調理スタッフや給仕スタッフなど地元の方に協力いただいているので、イベント全体をみてもDINING OUT成功の鍵は地元の運営チームをどうつくるかにかかっていると言えるのかもしれません。

−− 主催者側の一方通行ではなく、地元の協力もないと成立しないイベントですね。

その通りです。外部の人間が勝手にきてイベントやっておしまい、では一時的なお祭りで終わってしまいます。DINING OUTは一過性のイベントではなく、長期的に根付くものを残したいという思いをもっています。そのためにも、イベント開催で培ったノウハウをどのように残せば活用し続けてもらえるのか、ということも常に考えています。

例えば、DINING OUTのメニューレシピを地元に公開して、実際に提供することでその土地の新たな郷土料理として根付かせる「プレミアムレシピ」というプロジェクト。地方グルメに、B級グルメだけではなくA級グルメという楽しみ方も提案しようと始まりました。最高の食材を使うメニューなので当然値段は安くありません。でも、その土地でしか食べることができない、その土地で生産されたレベルが高い食材を使ったスペシャルな料理は、新たな観光資源になると思いますね。

−− DINING OUTは車メーカーの「LEXUS」が協賛していますが、なぜ車メーカーがパートナーになったのでしょうか。

LEXUSさんは、元々デザインアワードやショートフィルムなど、ブランディングコミュニケーションの一環として、クリエイティブな活動を支援しています。DINING OUTについても、地方創生に取り組む活動やクリエイティブな世界観に共鳴いただきパートナーとなっていただきました。

協賛といっても、DINING OUTでベタな車のプロモーションは一切ありません。以前、DINING OUTの中で開催地を巡るドライビングコースをつくったことがあるのですが、その際は車を貸し出してくれました。ただ、これはあくまでも “おもてなし”の一環であり、この“おもてなし”を通して「LEXUS」ブランドをより強く体感していただくことに繋げることができたと考えています。 DINING OUTとLEXUS、お互いの世界観が一致したからこそ素晴らしいパートナーシップが結べているのだと思います。

動画で発信する新たな形の地域ブランディング

−− 地域と密着しながら活動していたDINING OUTが新たな取り組みとしてスタートしたのは、地域の魅力を”映像”として発信する「DINING OUT FILMS」の立ち上げでした。なぜここにきて“映像”だったのでしょうか。

イベントは開催までに時間がかかります。DINING OUTも、たった数日間の開催の為に半年近くの期間が必要になります。ロケハンから始まり、開催地の文化や風土の調査。協力頂くシェフが決まれば、今度は一緒に現地の食材を探しにいきメニューを開発します。それ以外にも、当日協力頂く地元の方とのオリエンテーションも必要ですし、イベントの後に実施する広報活動も重要な活動です。年に2回、どんなに頑張っても3回開催するのが限界です。
しかし、地域の魅力やシェフのクリエーションなどを、もっと恒常的に発信したい。それが僕らの悩みであり課題でもありました。色々と考える中でフラグがたったのが、映像という表現方法でした。映像であれば、表現できる幅が広がるだけではなく、言葉の壁もありません。DINING OUTはグローバルに展開をしていきたいと考えているので、そこでも大きな力になってくれると思いました。

当初は、イベントの疑似体験ができるような映像を制作しようと考えていました。しかし、それだけではちょっと物足りないかなと。せっかく新しく立ち上げるのであれば、DINING OUTというイベントだけにフォーカスするのではなく、活動を通して発掘してきた地域の魅力や食を、映像として楽しんでもらうことをテーマにしようと思いました。

これまで、DINING OUTはイベント集団でした。しかし、DINING OUT FILMSの活動を通して、本質的に表現できる幅を広げていけると感じています。DINING OUTというメガネを通すとこう見える、こんな切り取り方ができるのか!という新しい視点や感覚を伝えるためのツールになれるといいですね。DINING OUT が地域と食に特化したクリエイティブユニットへ進化していくための、象徴的なプロジェクトになると思っています。

Dining Out 3

−− DINING OUT FILMSの第一弾として公開された動画「CIRCULATION in SADO」の題材に、2013年に佐渡で開催されたDINING OUTのメニューを選ばれた理由を教えてください。

動画の題材になったメニューは、循環農法と呼ばれる佐渡で推進される農法で育った黒豚とお米と牡蠣を使った一皿です。循環農法とは、特産である牡蠣の殻を使って有機農法でお米をつくり、そのお米の籾殻を餌にして黒豚を育てるという佐渡の特産物をサイクルさせて作物をつくっていく農法です。この非常にクリエイティブな取り組みを表現したいと思い、主役に選びました。

循環農法の裏側には佐渡の美しい自然や食文化が隠れています。それをクリエイティブな映像で表現することができれば、佐渡の新しい姿を引き出すことができるのではないかという期待もありました。

−− 映像を制作するにあたり意識されたことはありますか。

まずは、佐渡の新たな一面をしっかりと表現し、佐渡の方たちに喜んでもらえる作品にすることを最も意識しました。そのために、DINING OUTならではの視点や世界観を大切にすることに加え、企画性と狙いをもたせることには時間を割きました。

今回公開した動画は、「謎かけと謎解き」という構成にしています。レストランで出てきた料理が、どういったストーリーで食材へ戻っていくのかを遡っていき、最後はダイジェストで答えを回収しながらレストランへ戻っていく。あえて逆回転にすることで映像として印象に残るだけではなく、テーマでもある“循環”を象徴的に表現できると思いました。

くわえて、もう一つ意識したのは監督を始めとするスタッフの存在です。実は、全員30代前後の方をキャスティングしています。新しい映像表現などに挑戦し続けている新進気鋭の監督に、自由な視点で作品づくりをしてもらうことで全く新しい表現が生まれると思いました。事実、素晴らしい世界観を表現してくれたと思っています。

−− イベントとは異なり、動画に関する反響は測りにくい面もあると思うのですが、どのように感じていらっしゃいますか?

個人的には見て面白いと感じてもらえれば、一つの役目は果たしたのかなと思っています。ただ、コンテンツの運営という現実的な視点で考えると、もう少しシビアですよね。

動画の場合はイベントのように直接感想を聞くことが難しいので、再生回数や様々なメディアから声をかけていただくといったポジティブな反応が評価基準になると考えています。僕らが好きなようにつくって発信しているという面もあるのですが、公開した時点で好むも好まざるも評価の対象になります。結果として出てくる反応は、DINING OUT FILMSの存在意義や僕たちが表現するべきことを、その都度見直すことができる大切な指標になると思っています。

ただ、僕たちはよくプロジェクトの中で「地域と食のエンタメ化」というテーマを掲げているのですが、エンターテイメントとして楽しめるように仕上がっている、という軸はぶれないように作品作りをしていきたいと思っています。

−− DINING OUT FILMSのこだわりとは何でしょうか?

一つ一つ他とは全く異なるテイストの作品にしていくことで、僕らならではの世界観を構築していきたいですね。最新の映像トレンドなども取り込んでいきたいですし、表現方法もいろいろ試してみたい。アニメーションやドキュメンタリー、ショートムービーのような作品も作っていけたら面白いと考えています。あまり一つのことに捉われないで、僕らが表現したいと思ったことや感じたことにあわせて、様々な映像手法にチャレンジしていきたいですね。新たなことに挑戦し、アイデアを出し続けることで、今までにないような魅せ方や表現方法が生まれるきっかけにつながると思っています。それを多くの地域の方々にどんどん提案していき、一緒に取り組んでいきたいと考えています。

地域の特徴として、ゆるキャラやご当地グルメなど、一つ成功事例が出ると「右習え」な姿勢ばかりが増えてしまう傾向があるように感じています。地域の映像も、どんなに美しい映像だとしても、横並びの作品では動画の面白さや可能性を活かすことはできないですし、その題材の良さも表現できないと思います。だからこそDINING OUT FILMSはその土地の個性をきちんと引き出した上で、あっと驚くような作品を生み出すことができる存在でありたいと思っています。これが僕たち最大のこだわりですし、違いにしたいですね。

Dining Out 4

−− 今後、DINING OUTのように地元の方と協力して動画をつくるような計画はありますか。

実は今、動きかけているプロジェクトがあります。動画を制作するにあたって佐渡で撮影コーディネーターをしてくださったのは、地元のフリーペーパーを編集している方でした。その方と撮影後にしていた雑談の中で、 今回の動画を担当した監督やカメラマンに、佐渡という場所を魅力的に映す方法や編集方法について現地で講座のようなことをお願いできないか、という考えが持ち上がりました。

映像や写真は、同じ題材であっても撮り方や編集によってまったく異なるものができあがります。でも、クオリティを担保するためには、最低限の知識や技術はどうしても必要になってきます。結局そういった部分がカバーできないために諦めてしまっている側面もあったと思います。今回のプロジェクトが実行できれば、ノウハウを現地に伝えることができます。

自分たちが生活をしている土地を、動画や写真でどのように表現することができるか、ということはブランディングにつながる重要な要素です。現地の人の手で、その土地の新しい姿を切り取ることができるようになれば、現地からの発信内容もかわっていくと思います。

DINING OUTのように一緒につくりあげるという考えかたもありますが、DINING OUT FILMSでは僕たちが表現した作品を見た現地の方が何かを感じ、新たな取り組みにつながるという関係性になれたら嬉しいですね。

−− DINING OUTは、これからも新しいことを生み出してくれそうですね。ワクワクします!

DINING OUTというイベントを通して見えてくる世界はどんどん広がっています。スピンオフ企画のような感じで、これからも新しいことに挑戦し発信を続けていきたいと思います。DINING OUT FILMSも、より多くの方に見ていただける環境をつくっていきたいと思っているので、活動を続ける中で様々なメディアのコンテンツにもなれたら嬉しいですね。

2020年には、東京オリンピック・パラリンピックという最大のイベントがあります。海外から注目される絶好の機会にむけて、DINING OUTはジャパンプレゼンテーションができるような活動体に進化していけたら面白いと思っています。

−− 最後に、DINING OUT FILMSの次回作が気になるところですが、いつごろ公開予定でしょうか?

新作は8月に公開予定です。次回作は、音楽をテーマにした、地域のプロモーションムービーを手掛けようと考えています。イベント開催や映像制作を通じて地域と触れ合う中で感じた魅力を、純粋に表現した映像になっています。

これからも、月に数本の間隔で新しい映像を公開していく予定です。日本各地のまだ見ぬ魅力を様々な映像で表現していくので、楽しみにしていてください。

 

■プロフィール

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吉野 哲 (よしの あきら)
PROJECT DINING OUT メディアプロデューサー

2005年、博報堂入社。2012年、博報堂DYメディアパートナーズにて、広告コミュニケーションのノウハウを活用した新規事業「DINING OUT」のメンバーに加入。以来、DINING OUTのブランディングを目的としたメディアプロモーションや、メディア関連のコンテンツ開発をメインに担当。2015年、新規プロジェクトとして「DINING OUT FILMS」を立ち上げた。

Viimaga(powered by Viibar)より転載

 

(参考)
DINING OUTとは?
・最新リリース:日本磁器発祥の地、佐賀県有田にて「DINING OUT ARITA with LEXUS」限定オープン。