福岡ソフトバンクホークスと広島東洋カープの戦いとなった「SMBC日本シリーズ2018」。盛り上がりを見せたシリーズは、ソフトバンクが2年連続9度目の日本一となり幕を閉じました。ソフトバンクと広島の勝敗を分けたものは何だったのか。どの選手の活躍が大きかったのか。年間800試合を超える野球のデータを収集・分析している、博報堂DYグループのデータスタジアム株式会社のアナリスト、佐々木浩哉にアナリストの視点から日本シリーズを振り返ってもらいました。
■より少ないチャンスをモノにしたソフトバンク
今年の日本シリーズの結果は、ソフトバンクの4勝1敗1分けでした。この結果だけ見るとソフトバンクの圧勝ですが、それぞれの試合は接戦が多く、ちょっとしたことで結果が変わっていても不思議ではなかったシリーズだったといえます。
・SMBC日本シリーズ2018全6戦の結果
日本シリーズでの総得点はソフトバンクが23点、広島が20点であまり差がなく、得点からも接戦であったことが分かります。ただ、ソフトバンクは凡打や失策、スクイズといったホームランやタイムリーヒット以外での得点があり、そこが広島との違いです。
広島のチーム打率は.245で、ソフトバンクの.215を上回り、タイムリーヒットも打っているので、チャンスを生かせなかったというわけではなく、運が味方した面もありますが、ソフトバンクが、より少ないチャンスをものにしたといえると思います。
■選手がチームの勝利にどれだけ貢献したかを示す「WPA」
選手がチームの勝利にどれだけ貢献したかを示す指標「WPA(Win Probability Added)」は、「勝利貢献度」と訳すことができます。打者や投手の各プレー前後のシチュエーション(イニング、点差、アウトカウント、ランナーの状況)からチームが勝利する確率を求め、そのプレーによって勝利する確率をどのように変動させたのかで勝利貢献度を評価します(WPAについての詳細はBaseballLabサイトへ)。今回は、この指標を元に選手の活躍を分析していきます。
たとえば第5戦の10回裏、ソフトバンクの柳田悠岐選手が打席に入ったシチュエーションでの勝利確率は0.64。それがサヨナラホームランで勝利が決まったので勝利確率は1.00になり、その差の0.36が柳田選手のWPAにプラスされ、打たれた広島の中﨑翔太投手には逆に-0.36がつきます。このようなシチュエーションごとのプラス・マイナスの数字を合算したものが、それぞれの選手の日本シリーズのWPAになります。
WPAは、試合の局面ごとの選手の貢献度を見ることができ、日本シリーズのような短期決戦の流れといったものを可視化できる指標といえます。このWPAはアメリカで開発された指標で、いわゆるセイバーメトリクスのひとつです。日本では、日本で過去に行われた試合をもとに勝利確率を設定して用いています。
■中心バッターのWPAも勝敗の行方に影響
先ほど例に挙げた柳田選手は、第5戦でサヨナラホームランを打ちましたが、ホームランはその1本だけで打率は.238でした。広島の丸佳浩選手もホームランは1本で打率は.160。両選手とも同じような成績で、中心バッターとしては今ひとつといった結果でしたが、このシリーズのWPAでは、柳田選手が出場した両チームの野手の中でトップ(WPA:0.52)だったんです。一方の丸選手は最下位(WPA:-0.49)でした。その差も勝敗の行方に影響したといえるでしょう。
■投手でのWPA1位はソフトバンク森唯斗投手
投手でWPAの1位はソフトバンクの森唯斗投手でした。接戦の試合展開の中で登板する中継ぎや抑えの投手は、点を取られるとWPAの数値がガクッと下がります。そういう傾向があるなかで、トップの記録を残した森投手はよく投げたといえます。
しかも、絶対的なクローザーだったソフトバンクのサファテ投手が故障で、森投手はシーズン途中から急きょ抑え役になり、日本シリーズが初めての大舞台という厳しい状況に置かれていたのですが、完璧に役目をこなしたことがこのWPAにも表れているのではないでしょうか。日本シリーズ新記録の6連続盗塁阻止という、派手な活躍をした甲斐拓也捕手(ソフトバンク)がMVPを受賞しましたが、陰のMVPは森投手だと個人的には高く評価しています。また、森投手以外のソフトバンクの中継ぎ陣も頑張り、それもシリーズの勝敗を分けたポイントのひとつになっていると思います。そして、ソフトバンクは継投が多かったですね。早め早めに投手をつぎ込んできたという点では、ソフトバンクはレギュラーシ-ズンと戦い方を変えてきたといえるかもしれません。
一方の広島は、甲斐捕手に盗塁を阻止されても、なお積極的に盗塁を仕掛け、レギュラーシーズンから見せてきた広島らしい戦い方を守っていたと思います。それに対してソフトバンクは、広島の「足」への対策も立ててきたように見えました。先発のバンデンハーク投手(ソフトバンク)なども、ふだんはあまりランナーに気をつかわないで投げるタイプですが、今シリーズでは明らかにランナーを意識したプレーをしていましたから。
投手のWPAのトップはソフトバンク森投手でしたが、続く2位、3位は広島の先発のジョンソン投手と中継ぎのフランスア投手でした。ジョンソン投手は実績十分ですが、フランスア投手は、レギュラーシーズンの途中に育成選手契約から支配下選手契約になったばかり。しかし、150キロを超える速球を武器によく投げました。来シーズンも期待できますね。
■打者よりも投手が活躍した今年の日本シリーズ
第3戦と第5戦は点の取り合いになりましたが、それ以外は淡々と試合が進んだ印象があり、打者よりも投手が活躍した日本シリーズだったといえるのではないでしょうか。その中でソフトバンクに勝利をもたらしたのは、タイムリーヒットやホームラン以外での得点、4番打者の活躍、中継ぎ投手陣の頑張りの3つがあげられるでしょう。
・第3戦、第5戦は期待勝率の動きが大きい
・それ以外の試合は大きな動きの少ない展開だったといえる
また、クライマックスシリーズでリーグ優勝の西武に勝って士気が上がっていたことや、サファテ投手など故障者が多くても戦えた選手層の厚さも勝因に加えてもいいかもしれません。両チームの差は僅差で、もし、柳田選手のサヨナラホームランがなかったら、広島に戻った第6戦を広島が勝っていたら、シリーズの流れは変わっていたと思います。
実は日本シリーズ前にレギュラーシーズンのデータをもとに、専用のソフトで分析した結果では4勝2敗で広島が有利だったんです。得点力で広島が上回っていたことや、広島で4試合あることなどが、広島が有利というデータに働いたようです。ただ、いずれにしても接戦になるというシミュレーション結果でした。たしかに結果は4勝1敗1分けでソフトバンクの圧勝でしたが、それぞれの試合は接戦が多く、ちょっとしたことで結果が変わっていても不思議ではなかったシリーズだったといえます。
■プロフィール
佐々木 浩哉
データスタジアム株式会社 野球アナリスト
各種メディア向けのデータ分析およびコンテンツ制作などを担当。中日スポーツ「プロ野球データで裏付け」コラムを連載中。広島ホームテレビ「フロントドア」やNHK「球辞苑」に出演。