キャリジョたちの結婚事情 ~オカネ編~
◆キラキラの婚約指輪と、居心地のよいソファ
前編では、結婚観の変化を分析したが、その新しい結婚観によって、結婚にまつわる消費意識にも変化が表れている。
結婚が人生のケジメじゃなくなったからこそ、指輪や結婚式の意味も変わってきているのだ。
30代以上のオトナの女性なら、ひとつやふたつ、憧れのジュエリーブランドはあるだろう。指輪といえばココでしょう、というブランドが思いつく。しかし20代のキャリジョはどうやらちがうようだ。給料3カ月分はもう古い。高級ブランドにもこだわらない。「好きなデザインがあって、お手頃の価格だったらそれでよくない?」と、まぁなんとも合理主義。「派手な婚約指輪って、普段つけないからいらない」「そのお金で、気持ちいいソファを買いたいな」。憧れや見栄よりも、居心地にお金をかけたいようなのだ。30代からすると「婚約指輪や結婚指輪くらい、一生に一度だからとっておきのイイブランドを選べばいいのに」と思ってしまう。これが世代差なのか。
結婚式の意味も変わってくる。
昔は、結婚式の招待状といえば、両家の名義で出していたところが多かったが、いまは新郎新婦が招待していることがほとんどだと思う(筆者の実感)。昔の結婚とは、家と家との結びつきで、家としてお披露目する場だったのが、今は新郎新婦が日頃の感謝をこめて仲間をおもてなしする場になっている。
その極端な例として、最近のウエディングパーティでは、新郎新婦の両親の席が、座席順で一番「前」にあることもあるという(!)。披露宴といえば両親たちは一番後ろの末席にいるのが常識だったが、その世にも新しいパーティでは、新郎新婦が一番感謝していておもてなししたい相手が両親だからこそ、両親が一番前なのかもしれない。
昔ながらの堅苦しいルールには縛られない。
格調高い場所で形式的な披露宴をするよりも、レストランやゲストハウスやリゾートで、仲間だけの居心地のいいパーティをしたい。とにかく仲間に楽しんでもらいたい。
招待されるゲストもリラックスしたカジュアルなパーティだと分かっているから、わざわざヘアサロンにいって髪型をキメキメにセットしてから行く人も減ったのではないだろうか。招待する方も、招待される方も、リラックスして楽しいなら、そのほうがいいよね。安いなら安いほうがいいよね、と合理的。ゼクシィ編集部・ゼクシィプレミア編集部へのヒヤリングによると「居心地重視」のウエディングが今の主流になりつつあるそうだ。
若者が合理的になっているからこそ、結婚式のパーティも地味になっている!?と思いきや、ゼクシィ編集部・ゼクシィプレミア編集部によると、意外にも、結婚式にかかる費用はあまり減っていないという。
それは「仲間への感謝」「おもてなし志向」の意識が強まっているから、招待客の食事代や、パーティの準備代があがっているからかもしれない。会場の装飾や式次第も、会場に任せっきりではない。自分達らしい様々なおもてなしを考え、工夫を凝らす。時間をかけてムービーをつくるのは当たり前。幹事たちがサプライズでダンスを踊ったり、衣装を買ってきて仮装したり、二次会ではゲームやプレゼント景品もちゃんと用意。昔のように、テーブルの花だけが装飾ではない。受付のテーブルや、ボードや、天井や、壁や、テーブルクロスに至るまで、オシャレな小物や雑貨にこだわればキリがない。仲間にリラックスして楽しんでもらえて、フォトジェニックなシーンをつくるためには、お金も時間もかかるのだ。
◆近未来のブライダル予測
このように結婚観が変わっていく中、結婚式やパーティは今後どう変わっていくだろうか。
たとえば「フォトウエディングパーティ」。
コラムの第一回でご紹介した「フォトジェニック消費」。これはSNSで自慢するために写真映えするものにお金をかけるという消費スタイルだ。そんな女性たちが結婚式に求めるのは、フォトジェニックなドレス姿と、フォトジェニックなパーティシーン。これまでのように披露宴の100人の前でお色直しして1~2着のドレスを着るよりも、SNS空間にいる1000人にむけてオシャレな10着のドレス姿を残すほうが、よっぽどやりたいはずだ。今も「フォトウエディング」といって写真だけ撮って済ませる人もいるが、これからは、いろんなドレスやいろんな仮装をして写真を撮り、おしゃれに加工してSNSでどんどんシェアしていくことが増えるかもしれない。そしてリアルな場にこだわらず、SNS上でパーティも疑似体験できてもいい。ウエディングパーティは生中継されていて、海外にいる友達も動画を見て参加できるし、アーカイブすれば、もはや予定が合わなくてもいつでも見放題。そんなバーチャルなパーティだってあるかもしれない。
そして「フォトジェニック準備」。
みんなの居心地がいいものはなにかを考えて、その準備のプロセスを大切にするキャリジョたち。パーティを準備する過程も、フォトジェニックでオシャレならなおさら楽しめる。だから、当日まで内緒にしておくサプライズな演目よりも、たとえネタバレしていてもみんな共感が得られるおもてなしにしたい。だからこそ、どんな料理がいいか、どんな音楽がいいか、どんな引き出物がいいか。事前に参加者に意見を聞いて決めることになるかもしれない。どんなおもてなしがいいかを、SNS上でアイデアを見せて、みんなからのいいね数が多い案に決める。その準備の過程さえもオシャレに撮影する。準備段階さえもみんなにオープンで、フォトジェニックなウエディングパーティの始まりだ。
ウエディングは時代によって変わっていく。
むかしむかし、家の居間でやっていたお披露目の祝言は、神社での神前式になり、ホテルで挙式・披露宴が一般的になり、ゴンドラに乗るカップルもいて、レストラン・ウエディングも流行り、今や旅先で挙式する人もいる。逆にパーティなんてしないジミ婚カップルだっている。結婚に正しい形なんてなく、これからもっともっと多様化していくだろう。これからあなたも、前代未聞の結婚式にお呼ばれするかもしれないし、前代未聞の結婚パーティを企画することになるかもしれない。
illustration : Yurika Yoshida
「キャリジョ研」レポートVOL.6 キャリジョたちの結婚事情 ~キモチ編~はこちら
キャリジョ研って?
「働く女性」(キャリジョ)をテーマに、博報堂および博報堂DYメディアパートナーズの女性マーケティングプラナー、プロモーションプラナー、メディアプロデューサーにて立ち上げた社内プロジェクト。
女性のトレンドを集めたインサイト分析や、有識者ヒアリング、女子会形式の定性調査、インターネットによる定量調査、クラスター調査などから「働く女性」を徹底的に分析。
その成果を社内外のナレッジとして共有し、日々のマーケティング・プランニング業務に生かしている。
プロフィール
瀧川千智(たきがわちさと)
雑誌局
2005年博報堂入社。マーケティング職を8年経験したのち、博報堂DYメディアパートナーズの雑誌局へ異動。女性プロジェクト「キャリジョ研」のメンバー。好きな科目は日本史、好きな食べ物は漬け物、好きなニュースは芸能情報。