<犬山紙子さんインタビュー>
女性の本音はどこにある? 犬山流の探り方
【後編】女を定義するなかれ。まずは腹を割って本音を探るべし!

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【前編】語り手は等身大であれ。応援ではなく共有せよ!はこちら

■人間観察では本音は分からない。まずは自分から腹を割ること。
■「女は~」「女の幸せは~」と決めつけるのが炎上につながる。

瀧川:ご著書を読んでいると、犬山さんの周りには、個性的な体験をしてきた女性が本当にたくさんいらっしゃるなと感じます。

犬山:仙台で仕事もしていなかった6年間、つまりニートだった期間って、彼氏もいないし、孤独で寂しくて、本当に辛かったんですね。それで、とにかく女友達に会っていました。私自身あまりにも平凡なので、ちょっと変わった人とか個性的な人にすごく惹かれるんです。よくバーやスナックを飲み歩いては、面白いな、素敵だなと思った女性に声をかけて、一緒に飲んでいました。だいたいママが面白いお店には、面白いお客さんが集まるんですよ。

瀧川:すごい(笑)。そうやって女友達を増やしていかれたのですね。その方々の話をもとにブログを書かれていたわけですが、話を聞くうえで何か気を付けていた事はありますか?

犬山:もちろん、職業、年齢、特徴などは架空のものにして、絶対に本人だとバレないように書きます。それから、つねに相手とは同じ目線で、その時はとにかく楽しくお話し、後で感じたことを自分なりにまとめて書くという風にしました。大切なのは、よく言う“人間観察”のような上から目線ではなくて、対等の立場で、相手のことを知りたいというスタンスだと思うんですね。そうやってブログに書いたものが、彼女たちにも面白い!と思ってもらえたら、ラッキー(笑)。次からは彼女たちのほうから、こんな話があるんだけど聞いて、と言ってくれるようになる。

瀧川:なるほど。広告業界ではよく広告のターゲットについて「話を聞く」「観察する」のが大切と言われます。犬山さんのおっしゃるような、フラットな視点でそれができると良いですが、「観察」と言っている時点で、同じ目線に立てていないような……。ときどき私も調査でアンケートを取ったり、インタビューしたりするのですが、どうやったら本当の気持ちを話してもらえたり、腹を割ってもらえるんでしょうか。

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犬山:やっぱり自分の腹も割ることが大事なんじゃないでしょうか。過去に私も、上から目線で観察して対象を分類してみたりして、いけ好かない時期がありました(笑)。でも、そういう風に分類することで、相手に嫌な思いをさせることもあるかもしれないし、いくらわかったようなことを言っても、世の中が求めていることはまた別だったりするんですよね。
いまはブログでも、本当に腹を割って自分の本音を書くようにしています。自分が腹を割ってはじめて、相手にも腹を割ってもらえるんですよね。LINEやTwitterでアンケートをとるときも、まずは自分の悩みやモヤモヤを書く。そのあとにアンケートをすると、みんなが本音を書いて送ってきてくれる。そうやっていろんな意見を教えてもらって、咀嚼し、自分なりの文章にするというやりかたをとっています。

瀧川:そうなんですね。キャリジョ研でも働く女性を独自にタイプ別に分類していますが、それを公開した当初、大部分は好意的な反応で面白がってくれるものだったのですが、実際いろんな意見もあって(苦笑)。なるほど難しいものだなと思いました。
女性たちに言ってはいけない「NGワード」ってありますか?

犬山:私が文章を書くうえで気を付けているのは、主語を「女は~」にしないこと。たまに、自分の彼氏のケースしか知らないのに「男ってこういうところあるよね」と言う人もいますよね(笑)。男女問わずにそうかもしれませんが。「女の幸せとは…」なんて言われても、それはあなたが考える幸せでしょ?って思う(笑)。だから私は、「自分はこう思う」というスタンスで書くしかないと思っています。

瀧川:たしかに、女の生き方をこうだと決めつけているように見えると、そんなんじゃない!という意見が必ず生まれますよね。ネットでの炎上しないためにも、みんなが知っておきたいポイントです。

■同世代には、自分を顧みない女性が多い!?
■これからの時代は、女性がもっと自由になる

瀧川:私はいま犬山さんと同じ30代半ばですが、どうしても仕事において「女性だけど負けずにがんばらなきゃ」という姿勢になってしまいます。でも20代の後輩を見ていると、もっと肩の力が抜けているというか、「女性だから」とか「女性なのに」とかは関係なく頑張っていて、時代が変わってきているんだなあと感じます。犬山さんはそういう変化を感じたりはしますか?

犬山:変化は感じますよ。私たちが小さい頃って、お姫様が美人っていうだけで、努力もせずにただ待っていれば、王子さまに見初められて幸せになるという童話ばかりでしたよね。高スペックというだけで中身もろくに知らない相手なのに(笑)。少女漫画でもそういうパターンが多かった。それが刷り込まれているから、同世代の女性を見ていると、ひたすら男性に高スペックを求める人が多い気がするんですよね。
でも、最近の子ども向けの本や映画等を見ていると、女の子でも一人でやっていける、男の子の力を借りなくても、誰だって自由で自立して生きていけるというメッセージが感じられているものが増えたなと思っていて。いまの若い子たちが感受性豊かな時期にそういうのを見て育っていけば、彼女たちが大きくなるころにはもっと変わっていくだろうなと思います。「私が稼ぐから大丈夫よ」っていう女の子は確実に増えるんじゃないかな。あ、でもいまのところ、まだ専業主婦になりたいっていう女子の方が多いんですよね?

瀧川:そうです、いまはまだ半々くらい。でも実際は、「憧れるけど、無理だよね」という感じみたいです。結婚してもこれまで通り働くだろうとか、仕事を変えてでも働くだろうという回答も合わせると、9割は「今後も働くだろう」という答えになる。理想と現実が表れていますよね。このアンケートを取った世代って、母親が専業主婦という子が多いんですよね。その母親が、キャリアウーマンになりたかった夢を娘に託したいとか、娘にも自分と同じように専業主婦になってほしいとかで、二分している感じはします。母親の娘への影響は大きいと思います。

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犬山:男性も結構深刻だと思いますよ。自分の親世代は、男は家族を養えてなんぼだ、というプレッシャーを息子たちに与えている事が多いと思っているのですが、現実的にそんなに稼げないから、どうしたって結婚はいいやってなる。二人で働けばいいじゃん!と思うんですけどね(笑)。女性も自分が食べていく分は自分で稼いだほうが自由を感じられると思うので、将来的にそうなったときに、女の子はもっと働きたい、自立したいと思うようになるんじゃないですかね。

瀧川:いまは女性たちの中にも、趣味の雑貨づくりを仕事にしたり、30代半ばで好きな仕事を見つけて転職したり、副業をするパラレルキャリアという考え方も広がりつつあると思います。もっと自由で、縛られない生き方、働き方が少しずつ広がっていっているのかもしれませんね。
ただ一方で、仕事も結婚も出産もすべて手に入れる!というような、完璧な女性像、理想像の呪縛も依然あるような気がします。

犬山:確かにありますね。でもいまは過渡期だと思います。確実に変化は出てきていると思います。母親像にしてもそう。私も間もなく出産を迎えますが「無痛分娩」を予定している事をブログに書いたところ、ほとんどが応援してくれる反応でした。昔だったらもっと一方的に叩かれただろうなと思います。あと、家事が苦手だから外注したいとか、夫にやってもらっているっていう投稿をしても、基本的にあまりバッシングはされない。そういう押しつけとかは、確かに少しずつなくなっていっているんでしょうね。

瀧川:最後になんだか女子の未来に希望が持てる感じがしました。
今日はお忙しいところ、貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!

 

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【撮影協力】ALOHA TABLE nakameguro

【インタビューを終えて】

朝の番組のコメンテーターでもおなじみ犬山紙子さん。毒舌キャラとお思いの方もいるかもしれませんが、そんなことは全くなく!むしろ、女性たちへの優しい想いがあふれる、真面目な、それでいて、ぶっちゃけていて明るい、本当に素敵な方でした。
衝撃だったのは「人間観察はしない」と仰っていたこと。広告会社のマーケッターは「生活者を観察してインサイトを発見しよう」と言われたりもします。一方的に観察&質問。しかしそれはもはや旧来型の調査手法なのかもしれません。
今の時代、ソーシャルな世界ではみんなが自分のアカウントを持っていて、源平合戦さながら「やぁやぁ我こそは」と名乗った上でコミュニケーションが始まる。たくさん情報発信をする人には、たくさんのヒトと情報が集まってくる。GIVEandTAKE。一方的に情報を得るなんてズルいのかもしれません。
…かくいう、私も犬山さんに腹を割ることができたのか…一方的なインタビューに反省しております…。

 

◆プロフィール

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犬山紙子
(いぬやま かみこ) 
1981年生まれ。イラストエッセイスト。美人なのになぜか恋愛がうまくいかない人たちの生態を綴ったエッセイ『負け美女』(マガジンハウス)でデビュー。雑誌やWEBでの連載のほか、ラジオ、テレビのコメンテーターとして活躍。『SNS盛』(学研マーケティング)、『地雷手帖 嫌われ女子50の秘密』(文藝春秋)、『言ってはいけないクソバイス』(ポプラ社)、『悲しきオンナたちの口癖』(ぶんか社)などの著書がある。

 

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瀧川千智
(たきがわ ちさと)
雑誌局 業務推進一部
2005年博報堂入社。マーケティング職を8年経験したのち、博報堂DYメディアパートナーズの雑誌局へ異動。女性プロジェクト「キャリジョ研」のメンバー。好きな科目は日本史、好きな食べ物は漬け物、好きなニュースは芸能情報。