キーワード
オウンドメディア3.0【おうんどめでぃあ3.0】
KEYWORD

企業が直接所有する「オウンドメディア」は、SNSやスマートフォンに象徴されるデジタル化の進展によりマーケティング価値が飛躍的に高まっている。一方、生活者と真摯(しんし)に向き合うことも求められるようになってきており、3.0のステージに入ったと捉えられよう。

2009年、日本アドバタイザーズ協会のWeb広告研究会が「トリプルメディア」を提唱してから8年。スマートフォンの普及によって、SNSやゲームアプリ、ライフサポートアプリなどがどんどん生活の中に入り込み、24時間365日、コミュニケーションやエンターテインメント、サービスなどを謳歌(おうか)できる時代になった。生活者がいつでもどこでもデジタルによりアクセスできる状況にある今、企業が生活者に対して直接受発信を行うことのできる「デジタルオウンドメディア」の役割も変化してきている。

■オウンドメディア1.0

インターネット黎明期、自社の言いたい情報を載せたLP(ランディングページ)を用意する、という発想であった時代が1.0と言えよう。検索結果として表示されるリンクや、出稿したバナーなどから自社のホームページへ引き込み情報に接触させるというアプローチであり、「続きはWebで」と他のペイドメディアと連動した手法も多かった。検索やクリックなど、ウェブ上でいかに生活者の能動的行動を起こさせるかがカギではあるが、その先で接触させる情報は企業目線の一方的な内容も多かった。

■オウンドメディア2.0

インターネットで接触できる情報量が爆発的に増え、生活者自らではとても情報を取捨選択しきれず、検索エンジンの結果や他者の推奨をより求めるようになった時代が2.0。@cosme、価格.com、食べログなどの比較サイトが活用されるようになり、SNSの普及により一般の生活者も自由に評価・評論・共有できるようになった時代でもある。ここではいかにシェアされるか、いかに検索結果で上位に上がるか、という視点が重視された。情報の大海で勝ち抜くべく、自社オウンドメディア外にもコンテンツが流通し機能する「コンテンツマーケティング」が持てはやされた。高速PDCAにより投入されるコンテンツは、オウンドメディアへの流入にも貢献する。

本来は自社商品・サービスにつながる内容が伴わないとマーケティングの意味をなさないはずであるが、むやみにコンテンツを量産し、自社とは関係性の薄いコンテンツが投入されることもしばしば起きる事態になった。コンテンツに対して信頼性や権利といった責任を問う声が上がったのも記憶に新しいところ、誘導された先にあるオウンドメディアの意義も問われることになったのである。

■そしてオウンドメディア3.0へ

今マーケターは、どのようなデジタルオウンドメディアを目指せばいいのだろうか。それこそまさに3.0で追求されるべきものだ。ただインターフェースを用意し、コンテンツを投入する、さらには逐次改変していくという、「情報を置く」「量や面白さでごまかす」「効率で乗り切る」という視点ではないはずだ。目指すべきは、自社が生活者のために何ができるかを示し、生活者がそれに応えたくなるようなそのやり取りを通じ、関係を深めていくという姿であろう。その真摯な姿勢こそが本来的な共感を生み、その共感が共有されていくのである。

もちろん一定の効率化は必要であろうが、効率を追求し過ぎると、どれも似たようなものになる。その中の一つになってしまうのでなく、自社を積極的に選んでもらえるよう設計・運用することが重要である。既存の関係を継続しながら、新しい生活者も引き付ける。3.0のステージにおけるオウンドメディアは、その両者を受け止めるべく、効率性と独自性、双方の実現を狙うのだ。(図1)

図1:オウンドメディアのジレンマを越える

図1:オウンドメディアのジレンマを越える

そこに必要なのは、自社が生活者に対して何を提供しようとしているのか明確化したビジョンのもと、生活者のインサイトを絶えず捉えていく覚悟である。顧客がとる行動にのっとり、顧客が求めるかたちで情報を提供し続けていくことは、まさにデジタル上で自社と顧客がインタラクションを交わすことに他ならない。「カスタマージャーニー」や「UX(ユーザーエクスペリエンス)」がバズワードとなっているが、オウンドメディアも今、いわゆる「メディア」という狭義の意味にとらわれない、自社顧客体験をマネジメントできる「プラットホーム」として広義の運用を求められる時代に突入したと言えよう。(図2)

図2:オウンドメディア2.0から3.0へ

図2:オウンドメディア2.0から3.0へ

※「ウェブ広告朝日」より転載
(A15-1396/朝日新聞社に無断で転載することを禁じます)

中川浩史(なかがわ・ひろし) 博報堂 アクティベーション企画局 デジタルアクティベーション部 インタラクティブディレクター

1994年博報堂入社。プロモーションを出自に、CRM、インタラクティブ、ソーシャルメディア、ナレッジビジネスなどを経験、現在はデジタルを取り込んだ統合マーケティングコミュニケーションの設計・運用に従事。博報堂DYグループ・次世代オウンドメディア・マーケティングセンターのメンバーでもあり、飲料、電力、運輸など、大手オウンドメディアの構築・運用実績も多数。ad:tech tokyo 2015にも登壇。

※執筆者の部署名は、執筆時のものであり現在の情報と異なる場合があります。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
PAGE TOP