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人が集まる場所にはワケがある 「Media Hotspots」 第1回 映画『カメラを止めるな!』【後編】
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『カメ止め』大ヒットから考察する、メディアとコンテンツの行く先

2018年のエンタテインメント業界のニュースとして外せない、映画『カメラを止めるな!』の大ヒット。本作の上映拡大にいち早く乗り出した映画製作・配給会社のアスミック・エース代表取締役会長の村山直樹氏を、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所の吉川昌孝所長が訪ね、その要因を探る対談の後編をお届けします。

映画『カメラを止めるな!』公式サイトより

前編では『カメラを止めるな!』を支えたアスミック・エース社員の「情熱」と、ファンの勢いを後押ししたソーシャルメディアへ考察を深めました。後編では、本作のヒットを通じて見えた「視聴者とコンテンツの関係性」の変化、さらにアスミック・エースが誇る豊富なコンテンツ群からの知見をもとに、メディア/コンテンツの行き先を占っていきます。

「ライブ感」や「リアルな場」がパワーをさらに持つ

吉川 今回の『カメ止め』の大ヒットも鑑みてですが、生活者にとってメディアやコンテンツは「どういった存在になっていくのか」についてもお伺いしたいです。

映画もあり、テレビもあり、さらには動画配信サイトもある。あるいは、5G回線の整備による多数同時接続、IoTによるあらゆるもののスクリーン化、8K映像で本物以上の解像度になるということも、リアルタイムに差し迫っているかと思いますが。

村山 われわれもディスカッションしている最中ですが、大きくは「ライブ感」や「リアルな場」が持つ力は今まで以上に強くなると思っています。それと、オンラインを介した自宅で映像を楽しむことは、さらに進んでいくでしょう。要は「外でのライブ消費型」と「自宅消費型」に二分されていくイメージがあります。そして、各々に適合するコンテンツを追求して、いかに揃えていけるか。

吉川 コンテンツの中身の議論よりは、視聴環境からの逆算が必要だと。

村山 ええ。「自宅で見たいときのコンテンツは何なのか」を、しっかりテーマとして捉えられるかですね。いずれにしても、放送や配信の領域は曖昧になるのは間違いありません。あまり技術的なものに惑わされず、どういったシチュエーションで、どういうテンションで観るかを重視するようになるでしょう。

技術的な話でいえば、亡くなったエイミー・ワインハウスのホログラムライブが発表されていますね。いよいよ、それを視聴者側が受け入れられる時代になってきたんだと思います。あるいは、ライブビューイングといって、劇場でスクリーンに向かってサイリウムを振りながら鑑賞するのも定着していますよね。

要はこれこそ「場の消費」なんだなぁ、と。体験をみんなで分かち合い、演者本人は映像であっても視聴者が満足している。映画の「応援上映」が増えてきたのも、そういうのがじわじわ広がって当たり前になってきてるからこそ成り立ってきてるんじゃないかというふうに思い始めていますね。

吉川 まさに『カメ止め』も、リピーター推奨で「上映中の絶叫・歓声・ツッコミ大歓迎」といった上映が行われていますね。それから「リアルな場」という言葉もありましたが、ライブビューイングは中継でカットができないものですから、それも同じ文脈の話なのかなと。そして、まさに『カメ止め』の舞台挨拶で「大ヒット上映中」の垂れ幕を禁じたように、ある種の演出やフェイクについて、観る側の意識も高まっているように思います。製作側も宣伝側も、いかにフェイク感を脱出し、リアルに向き合えるかもひとつのキーなのでしょう。

11月22日に東京・お台場のZepp DiverCityで開催されたファンミーティング『最高かよ~!「カメ止め!」アツアツ感染者集会~ポンデミック 2018~』(公式Facebookページより)

村山 まさにそうですね。

吉川 純粋な熱量であればあるほど、ちゃんと伝わってしまうということだと思います。

村山 だからこそ、逆に応援したくなるんでしょう。フェイク感がないですからね。

観たいシチュエーションを選べることで、作品の傾向にも変化が

村山 映画館が「ライブの場」になってきている感触はあります。その見方だと、ライブ的な感覚を持って足を運ぶ人にとって、「いい映画とはなんぞや」という問いも出ます。しっとりした映画は、実はもう劇場で見たくないのかもしれない。そういう映画は、しっとり泣きたいからこそ自宅に向いていそうですし。

吉川 仮説としてはありますね。

村山 最近は洋画でも、アスミック・エースなら『TAXi ダイヤモンド・ミッション』のような派手で爽快なもの、サイコスリラーなどの絶叫ものは客足もいいんです。ただ、いわゆる「単館系」と呼ばれていたような、従来型の洋画は劇場での動員数もなかなか上がりにくい。

吉川 それこそ、アップリンクさんがオンラインの配信をされていますが、難しい映画や深い映画も、映画館よりも自宅で……という想いに沿いやすいのかもしれません。

村山 泣きたい気持ちのときは、1人でいたいと感じるのでしょう。しっとり系の洋画は、日本で長いことヒット作がないのでは? 洋画でも、ミュージカルぐらい振り切ってエンタテインメントになっていると動員数も良いものはありますが……やはり観る側が、「自宅で泣きたい」「みんなで騒ぎたい」といったように、「場」ごとに楽しみ方を変えているからではないかと。

吉川 自宅での視聴環境でいえば、アスミック・エースの場合は、ケーブルテレビのJ:COMとのつながりもありますね。映画だけでなく、自宅においてのコンテンツの移り変わりなどはあるのでしょうか。

村山 やはり「家族で」というシーンも結構あるようです。例えば、劇場公開が終わった作品を割と早いタイミングで放送するのですが、そこでは劇場でもヒットした王道の作品が見られやすい。一方で、昔のVシネマや任侠ものも、自宅ではかなり観られているんですよ。

吉川 ニーズがあるんですね!

村山 年齢層の高い人が見やすいというのもあるんでしょうけれど、今はそれらを観たくても上映している映画館が少ないからだとも思いますが。むしろ、今は劇場なら『家族はつらいよ』みたいな王道感があるファミリー映画のほうがいいのかもしれません。人によって使い方は分けているかもしれませんし。

日本のテレビドラマが復権するためのアイデア

村山 今の話で思い出したんですが、実は日本のドラマがなかなか海外で売れないんですよね。

吉川 いわゆる番販(番組販売)が厳しいと。

村山 中国や韓国でも商談することがあるので耳にしたのが、「日本ドラマはスピード感がなく、テンポの遅さに耐えられない」と言うんですよ。つまり、シナリオやキャストではなく生理的な理由によるものだと。それから「1作品当たり最低30本ぐらいは話数が欲しい」とも言われます。

吉川 最近は1クール12話から13話が標準ですものね。

村山 最低でも2クール分、24話ぐらいないといけない。できれば50話から60話くらいは欲しいと。たしかに中国ドラマは、だいたいそれくらいの長さで、内容の密度も濃い。それだけの話数を続けるには、ストーリーにも相当な山谷がないと持たない。日本では1クールの短さからか「変化が少ないから面白くない」と感じるようです。そこも、構造的な課題として挙げられます。

吉川 『君の名は。』が中国でも受けたのは、その求められるスピード感や密度感が伝わっているような気がします。

村山 アニメが受けるのは、まさにそういう点にあるようです。今、海外で売れないと、なかなか商売が成り立たなくなっていることを考えても、映像業界としてはもう少し真正面から取り組むべき課題なのかなと。

吉川 日本の作り手側には、海外と比べて意識の変化があるのでしょうか?

村山 アメリカや中国から見ると違和感があるフォーマットになっているけれど、従来から日本市場だけで飯を食ってきているから、どうしてもスタンダードから抜けられないところはあります。そこでなかなか、海外に攻めきれない。ただ、映画の単品のほうが理解されやすいですが、ドラマがなかなか厳しいですよね……。

吉川 イノベーションが起きる分野って、まさに「苦しくなったところから」だと言う気がしています。それでいうと、テレビドラマは日本でも最後までよかったジャンルなので、まさにこれからかもしれません。

村山 たしかに、アニメは先に苦しくなっていましたからね。今はすでに海外仕様ありきでいろいろと動いている変化を感じます。

吉川 『カメ止め』のヒットから派生して、今後のメディアやコンテンツについての貴重な示唆を伺えました。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。

■対談後記

一人のスタッフの「これはいける!」という直感をみんなの確信に変えていくスピード。たった2館からの上映を1カ月ちょっとで全国展開にしていくスピード。お客さんからの声に応えて、次々とグッズを作り、新たな施策を打っていくスピード。あらゆる局面での映画界の常識を覆す“スピード感”こそが、「カメ止め」の熱量向上(感染拡大)の秘密でした。「カメ止め」のこれらの臨機応変な対応は、昨今マーケティング業界で言われ始めている「PDCAサイクルからOODA(Obeserve、Orient、Decide、Act~観察して、本質をつかみ、決定して、行動する)ループへ」の流れと呼応するとも思います。自分たちを取り巻く状況をリアルタイムに正確に把握し、そこからどんな意味を読み解いて、意思決定と行動をしていくのか。これからのメディア・コンテンツにとって、状況把握力と瞬発力がますます重要になってきそうです。

 

■プロフィール

村山直樹
ジュピターテレコム 上席執行役員 メディア事業部門長
アスミック・エース 代表取締役会長

 

吉川昌孝
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 所長

 

【関連情報】

★人が集まる場所にはワケがある 「Media Hotspots」 第1回 映画『カメラを止めるな!』【前編】

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