レポート
アドテック東京
ブロックチェーンによって広告はどう変わるのか【アドテック東京2019レポート】
REPORT

ブロックチェーンによって広告はどう変わり、広告主や広告会社、メディアはどう変わるのでしょうか。
マーケティングテクノロジーについてのカンファレンス「ad:tech tokyo2019(アドテック東京)」において、「広告×ブロックチェーン入門~活用事例から考える広告業界の未来」というタイトルでセッションが行われました。

モデレーター:
ADKマーケティング・ソリューションズ
コミュニケーションチャネルプランニング本部
中野琢氏

スピーカー:
DMM.com
UI/UXデザイナー & デザインストラテジスト
河西紀明氏

N.Avenue
代表取締役社長CEO
神本侑季氏

博報堂DYメディアパートナーズ
ビジネスイノベーション局
髙橋信行

 

中野:まずは自己紹介をお願いします。

神本:N.Avenueの神本です。N.Avenueはヤフーグループから出資をして昨年11月に創業し、ブロックチェーンを中心とした新しい技術による産業発展を支援するためのメディアイベント事業をやっています。具体的には、コインデスクの日本版や、ブロックチェーン・カンファレンスを開催しました。
本日は、ブロックチェーンについて我々が持っている情報をお伝えすることと、メディアの立場でもお話できたらと思います。

河西:DMM.comの河西です。私はテクノロジー本部という社内の横断組織に所属しており、DMM内で展開する多くの事業で開発チームの技術サポートや、サービスデザインの戦略支援をしています。

高橋:博報堂DYメディアパートナーズ ビジネスイノベーション局の高橋です。私は広告事業以外で新収益をどう作るかを考える部署で、いまはブロックチェーン関連のプロダクト開発を行っています。近年、ブロックチェーンを使ったゲームが登場していますが、いま特にブロックチェーンゲーム領域に取り組んでいます。

中野:ADKマーケティング・ソリューションズの中野です。普段は外資系クライアント向けのデジタル戦略立案と実行を担当しており、クライアントの課題解決方法としてブロックチェーンが面白い技術だと感じたので、情報収集や実証実験に取り組んでいます。
今日は活用事例や今後の可能性を知っていただくことで、ブロックチェーンを面白いねと思い、今後一緒に取り組んでいきたいと思ってもらえれば幸いです。まずブロックチェーンが何なのかというところからお話いただきたいと思います。

高橋:まず、「ブロックチェーンって仮想通貨のことでしょ?」と言われることが多いですが、それは違います。ブロックチェーンという技術の使用用途の一つが、仮想通貨です。仮想通貨以外にもブロックチェーンでできることがNFTやマイクロペイメントなど様々あるため、より理解が難しいものになっているのかと思います。

分かりやすく端的に、ブロックチェーンの本質を一言で表すと「コピーを禁止する技術」です。インターネットは、コピー&ペーストによって世界中に情報を拡散させることができますが、ブロックチェーンはこの反対です。当たり前にコピーできていたデータをコピー禁止にすることで、デジタルデータに希少価値が付くようになりました。
例えばビットコインは2100万枚と上限が決まっていてコピーができないので、希少なデータ=資産として認められるようになり通貨として使われ始めました。

神本:仮想通貨は、一番最初のユースケースですね。ビットコインから始まって、企業などが独自のトークンを発行することで資金調達や投機したりしています。バブルと呼ばれたり、いろいろな事件があって信頼性の低下もありましたが、起点は仮想通貨でした。そして、「トークンの発行のようなことは、アプリケーションにも応用できるんじゃないか」ということで考えられたのが、広告やゲームへの応用です。
更に、BtoBの金融領域での利用も始まっています。既存の銀行業務のコストを下げて利便線を上げられるか、が熱く議論されています。例えば有価証券のデジタル化で投資家へのメリットが増えるんじゃないかなど。
最近は、金融以外のBtoBでもブロックチェーンの応用は可能とよく言われていて、企業が興味をもってブロックチェーンを利用して新規事業をするケースが増えていると感じます。考えられる用途としては、サプライチェーン上にいる複数社で信頼できる情報を共有することで新しい価値を出す、といったことですね。

デジタルコンテンツの“中古”が流通する

中野:仮想通貨から始まり、社会インフラ領域まで活用が進んできているということですね。広告業界における活用を考えた際に、ブロックチェーンで実現可能なことは大きく分けて「報酬配分の最適化」「二次流通市場の創出」「マイクロペイメント」の3つだと考えています。

「報酬配分の最適化」については、例えばデジタル広告の取引において、広告主からメディアまでの全課程の繋がりを可視化、透明化する、ということが可能になります。今は広告主からすると「広告費として100払ったつもりが、最終的にメディアが受け取る金額が思っていたよりもずっと少なく、例えば30とか場合によってはそれ以下になっている」ということもあり得るのですが、広告取引を全て可視化することで、広告会社やアドテクベンダーはもちろん、メディアも含めたステークホルダー全員に最適な支払いをする助けになります。ADKもブロックチェーンを活用した広告取引の透明化に取り組んでいこうと思っておりますので、皆さんと一緒にデジタル広告業界を良くしていけたらと考えています。

高橋:ブロックチェーンによって広告会社や中間業者が全くいなくても、広告配信できるモデルが既にでてきています。広告主が出稿費を払ったら、ユーザーとメディアにお金が払える仕組みです。ビジネスモデルを変革するような事例がどれくらい広がるのかは分かりませんが、どういう風に活用したら既存のプレイヤーを傷つけることなく使うことができるかは、これから議論しなくてはならないでしょう。

「コピー禁止」についても、デジタル上で二次流通市場が新しく誕生したことが、収益となるポイントだと思います。二次流通とは、一般的にはネットオークションなどを利用して中古の商品を現物で送ることを指します。このデジタルバージョンが、ブロックチェーンによって誕生したのです。今は新しすぎてプレイヤーが全然いない状態なので、参入チャンスとも言えます。
日本は漫画や音楽などのコンテンツ市場の規模が約11.7兆円で、ほとんどが一次流通です。今は電子書籍で買った本を、二次流通で売るということができませんが、これができるようになればさらに市場が大きくなります。また二次流通する場合に、どうやって付加価値を付けるかもポイントになります。

事例としては、Anique(アニーク)というサービスで『進撃の巨人』の書き下ろしを、ブロックチェーンを使って販売したというものがあります。デジタルでありながら本当に一個しかないコンテンツをファンの人が買う、という形です。海外だと、野球やバスケの選手のブロマイドのデータを5枚限定で販売する、といったことに使われています。人気を集めれば、デジタルデータでありながら凄い価格になったりしています。

中野:従来のデジタルデータだとコピーによっていくらでも拡散できるので価値が生まれてこなかったのですが、ブロックチェーンを使えば価値を生み出せるということですよね。

神本:メディアの観点から補足すると、デジタルメディアの場合は一次情報を記者や新聞社が作っています。でも今はその内容をトラッキングできていないので、コピーして勝手に載せたページが収益を得たりして、一次情報を作った人に還元できていないという状況です。

中野:一次情報を作った人に収益が行かないと、結果として取材ができなくなり信頼性の高い情報が世に出なくなってしまう可能性があるということですよね。

神本:こういった動きの旗振りを誰がするかも大事です。コンテンツホルダーにお金がいかないといい記事も書けなくなるし、プラットフォームにも記事が行きません。まずプラットフォームとコンテンツホルダーなど、関係するみんなで管理しましょう、というコンセンサスが必要で、それがあってから技術の部分でブロックチェーンが使えるものです。海外ではここがうまくいっていなかったりします。

中野:どこか一社が管理のためのプラットフォームを作ると、利益独占じゃないかと言われたりしますよね。これを解決するにはメディア、広告会社、広告主でコンソーシアムを作って業界横断で取り組む必要があると思っています。

“ゲームをやること”が経済活動に

中野:次に、デジタルの二次流通はゲームからでは? という点について、高橋さんからお話いただけたらと思います。

高橋:メディアコンテンツが一次流通から二次流通に変わるのは大きい変化ですが、それとは別に、既存メディアがあるものをブロックチェーンに変えていくのは難しいだろうと考えています。では何だったら変えやすいのかとなると、ゲームが第一候補と考えています。VRもゲームやエンタメから広がっていったことと近いと思います。

ブロックチェーンをゲームに使うと、ゲームでお金を稼げるようになります。「このキャラクターは自分しか持っていない」というような場合、欲しがる人に対して10万円で売る、といったことができようになります。つまり、ゲームを遊ぶことが価値になっていきます。遊んだことが価値として残るゲームとそうでないゲームだったらどちらが残るかと言えば、価値が残る方がいいですよね。
今はまだ黎明期なので、ブロックチェーンを取り入れたゲームのクオリティはこれから高めていかなければならないと思います。でも4〜5年後には絶対面白くなるでしょうし、流行ると思っています。

中野:ゲームにブロックチェーンを使う場合にもう一つ考えられるのが、AというゲームのデータをBにも持ち出せる、ということがありますよね。河西さん、ご説明いただけますか。

河西:例えば特定のゲームをやっていて飽きてしまったときに、めちゃくちゃレアなアイテムを持っていたりしたら、そのアカウント自体に価値がつくので、アカウント自体を転売するといったケースはこれまでにもありましたね。ブロックチェーンを一部活用した仕組みを使うと、規約違反や非合法的な方法でアカウントごと売却しなくても、特定のアイテムだけを譲渡するといったことが簡単にできるようになります。
またオープンワールドのRPGのように現実体験と類似した体験ができるようなゲームで得た経験や獲得した資産を別のタイトルにも使えるようにするといったことも可能になるんです。つまりゲーム費やした時間や行動履歴、経済活動を価値転用して次に生かせるようになる、ということです。

高橋:そのような、ゲームで遊ぶことが価値になる世界がもうすぐくると思っていて、我々はそれを「Play to Asset」と呼んでいて、その実現をミッションとするプロダクト開発チーム「PlayAsset」を2019年4月に立ち上げました。どれくらい広がるかは魅力的なタイトルが入るかで変わると思うので、そうなりやすいようにビジネスとして成り立つ状況を整えるのが我々の仕事だと思っています。例えば、著作権管理や、ブロックチェーン上のアセットを日本円で取引できるようにする、といった具合です。現状では、ブロックチェーン上でのアセットの取引は仮想通貨でやり取りするのが一般的ですので。

中野:今はデジタル上でコラボしようとすると一社一社と交渉する必要がありますが、「PlayAsset」のプラットフォームを使えばいろいろな会社と簡単にコラボできるようになるということですよね。

デジタル二次流通に対応するための準備が必要

中野:次に、広告から少し離れてしまうかもしれませんが、マイクロペイメントについてお話いただけますでしょうか。

河西:マイクロペイメントは名前の通り少額の決済が可能になるサービスや仕組みのことです。例えば、知り合い同士で買い物をしたときに割り勘でキャッシュレスでの送受が不便でしたが、暗号通貨ではそれが技術的に可能になりました。しかし一般消費者の使い勝手の面では、暗号通貨の取り扱いの難しさに比べて近年盛んに競争されている電子決済サービスでもかなり実用レベルなってきましたよね?

しかし、一日常レベルの飲食や購買など消費活動ではこれで十分こと足りますが、実際に個人の間で5円とか10円以下のより小さい金額を取引するといったことも今後重要になってきます。これは、いわゆる「投げ銭」といわれる行動をWeb上でも効率的にできるようになったということです。

これは多くのサービスでも機能導入されていますね。これによって個人が年齢や住んでる地域を問わず、価値ある活動や情報を提供することでファンやオーディエンスからインセンティブ受けられるようになりました。

ブロックチェーンを活用したマイクロペイメントの場合はその属性上、サービスなど中央集権的なサービスの仲介や手数料を無視して、個人が個人に報酬を贈与できます。一方でサービスがプラットフォームとなって個人の活動を発信することを支援していることも事実なので、今後は「広告」のあり方の真価が問われますね。

中野:インフルエンサーのあり方も変わる可能性がありますね。今は広告主がインフルエンサーにお金を払っていますが、マイクロペイメントでフォロワーからお金を受け取ることができるようになれば、インフルエンサーはいい情報を発信することに専念できますよね。マイクロペイメントやインセンティブについてはメディアの観点でも様々な議論があると思いますが、神本さんいかがですか。

神本:「マイクロペイメントは何故今までできなかったの」と思う方がいるかもしれませんが、例えば映像配信サービスで1ヶ月1000円というようなサブスクの場合、これは見る量に関係なく月額は一定です。ですが、ある月は全然見ず、ある月は沢山見るといった場合、利用量に応じて支払いができたほうが得なケースも多いと思います。しかし現状では、銀行の振り込み手数料の関係で、手数料を払っても利益が出るような課金体系しか作れていません。これがマイクロペイメントであれば、送金コストを大幅に下げられるので、完全に利用量に応じた課金が可能になります。
また、ツイートの引用や「いいね」の数なども完全にトラッキングできるようになるので、そうしたことに応じてペイメントする、といったことも可能になります。

中野:マイクロペイメントが実現すると、決済や送金の最小単位を1円未満に設定できるという話もありますよね。ではインセンティブの設計についてはいかがでしょうか。

河西:よく行動経済学の考え方を引き合いに出すことが多いですが、子どもに対する教育シーンで「1000円払うから今日100点取ってね」というアンチパターンがあります。目先のご褒美が目的になってしまうと学習のモチベーションが持続しないので、学習の楽しさを理解して持続した結果としての得たインセンティブのほうが圧倒的な価値があります。芸能人の方が、使ってもいないコスメに「よかったです」と言うと、結果的に自分のブランドや信用価値を下げることになったりしますよね。つまり外発的な要因で報酬を設計すると駄目なんです。内発的な要因、つまり利他的なや貢献的な行動でもたらされるものを報酬にしたほうが持続性は高いです。

中野:インフルエンサーが「報酬を得る」ためにフォロワーを集めて使ってもいない商品のスポンサード投稿してしまう、という状況はインセンティブ設計が誤っている、ということですよね。

河西:そうですね。例えばある人がツイートで面白いことを言ったとします。でもその人にはフォロワーがいなくて、そのツイートをたまたま見たインフルエンサーが、同じようなことをツイートしてバズったとします。こういうことがあると、最初にツイートした人は報われなかったりしますが、仮にブロックチェーンだとこれを機械的なトラッキングに加えて、相対的な万人の承認形式を取ってパクリツイートへの鉄槌判定することができます。人力では難しいですからね。

神本:インセンティブ設計って、技術には関係ないところなんですよね。これまであんまりうまくいったケースがないのは、インセンティブ設計がとにかく難しいからだと思います。

中野:では最後にまとめとして、一言ずつお願いします。

高橋:ブロックチェーンは今、世界と競争していると考えてもらえたらと思います。デジタルの二次流通ができるようになり、世界中で対応するコンテンツを作っている状況です。 今後、仮に「海外では二次流通できるけど、日本は法規制やルールが対応していないから広がらない」となった場合、それは相対的に日本のコンテンツがなくなってしまうということです。そうならないように、コンソーシアムを作ったり、法律を変える準備を今からしておくことが大事だと考えています。

河西:今後の広告をどう考え、そのなかでブロックチェーン技術のような新しい技術がどう生かされていくのか、今までの体験とこれからの体験をいろいろ話しながら積み上げていければと思います。

神本:デジタルメディアの信頼性をどう担保するかということや、収益性が特定のプラットフォーマーに偏ってしまっているのをどう再分配するかというのは、ブロックチェーン関係なく問題になっていることです。この問題を解決するためにブロックチェーンは非常に有効なので、メディア、広告主、プラットフォーマー、代理店など、サプライチェーンに関係する会社同士でいろいろ考えていければと思います。

 

◆プロフィール

中野 琢
ADKマーケティング・ソリューションズ
コミュニケーションチャネルプランニング本部

 

河西 紀明
DMM.com
UI/UXデザイナー & デザインストラテジスト

 

神本 侑季
N.Avenue
代表取締役社長CEO

 

髙橋 信行
博報堂DYメディアパートナーズ
ビジネスイノベーション局

 

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