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6月24日に閉幕した「Cannes Lions 2017」。今回、こちらのサイトでは関西メディアソリューション局 曽根裕とデータドリブンプラニングセンター 井上太輝が、現地より連日トピックスをレポートしてきました。
その特別編として、「Lions Entertainment」エンターテインメント部門で審査員を努めた博報堂DYグループ のSTORIES, LLC. / STORIES INTERNATIONAL, INC.鈴木智也CEOへのインタビューをお届けします。審査の裏側から、これからのブランデッドエンターテインメントの在り方まで、様々なお話を語っていただきました。

―――エンターテインメント部門のクライテリア(審査基準)はどのようなものであったのでしょうか?

鈴木:審査員長の PJ Pereira からの審査メンバーに対する最初のサジェスションは

・ブランデッドエンターテインメントを定義付けるのでは無く、作品ごとのworkを審査する
・そしてどの作品を選ぶかが、それがライオンズエンターテインメントの未来を形作っていくことになる

というもので、個人的に納得感のある話から審査をスタートしていきました。
審査員のディスカッションも、ブランデットエンターテインメントはこうあるべきであるという話は出ず、時代とともに常に変化し続けているものであり、むしろ定義付けできるものではないという意見が多かったと感じています。

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STORIES, LLC. / STORIES INTERNATIONAL, INC. 鈴木智也CEO

―――今回受賞した作品は、どのような点が評価されたのでしょうか?

鈴木:グランプリを獲った、SANTANDER BANKの「BEYOND MONEY」※は
以下3つの点で、「カンヌライオンズ エンターテインメント」のグランプリを獲るにふさわしいものでした。

※スペインの銀行が公開した17分のショートフィルム
SANTANDER BANK「BEYOND MONEY」(カンヌライオンズ公式サイト)
買い物依存症の女性が、お金のために記憶を売っていくというストーリー

(1)Idea
まず一つ目に、アイデアの素晴らしさがあります。
「BEYOND MONEY=お金より大切なもの」というテーマを「銀行」が語っているということ。
この発想自体がハイコンセプトであり、SANTANDER BANKについてというよりも社会全体に対してのメッセージになっており、そのアイデアの大胆さは高く評価されました。またスペインの若者の失業問題など、社会的な背景の中でミレニアルズにいかにリーチするかというターゲット戦略もうまくできていたアイデアだと評価されています。

(2)Storytelling & Craft
二つ目は、作品自体のクオリティの高さ、
「エンターテインメントとして見た時に、お客さんがその17分をいい時間であったと思えるものになっているかどうか」です。
この作品は、SFジャンルで時系列を行き来するフラクチャードナラティブというフォーマットでストーリーの中で常に先の展開が気になるような、つくりになっています。また美術、CGや撮影技術を含めて映像としてクオリティが非常に高く、またスペインで有名な女優を起用しているというところでも、観客が時間を使っても惜しくないストーリーとクラフトが高く評価されました。

(3)Distribution
三つ目は、その作品がエンターテインメントとしての配信・配給のされ方になっているのかという点です。
このプロジェクトでは、ショートフィルムを単にサイトに置くのではなく、上映会という形で20館以上の映画館で実際に公開をされていたようで、映画館で観客がきちんとお金を払って観ており、また、そこからさらにNetflixなどのVODでも配信するなど、「エンターテインメント」としての流通されたことも評価のポイントになっています。

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―――日本からエンターテインメント部門を獲るために大切なことは何でしょうか?

鈴木:キーワードは、「オーディエンスファースト」だとはっきり認識しました。
マーケティング上のコンシューマーターゲットを、一旦エンターテインメントの「オーディエンス=観客」と捉え直し、オーディエンスを第一に考えたプロジェクトに(結果として)なっているかが大切なポイントです。
観客が時間を使ってよかった、もう一度見たい、究極的にはお金を払ってまで見たい・体験したいものを目指すことが重要です。また競合は他の広告ではなく、全てのコンテンツだと捉えることが必要だと強く感じています。プレイスメントやブランドインテグレーションがどれだけ上手にできていても、観客が楽しめるプロジェクトになっていなければ、元も子もないと感じています。

また今回カンヌライオンズのエンターテイメント部門に審査員として参加させていただき、先に挙げたグランプリ作品「BEYOND MONEY」をはじめ、1000以上に及ぶ全世界からエントリーされたプロジェクトやケースフィルムをじっくりとみることができたことは、私たちSTORIESとして新たなプロジェクトを生み出していくに当たり、非常に良い経験となりました。

ハリウッドの大物プロデューサーから芸能エージェンシー、広告会社など様々なバックグラウンドを持つ素晴らしい審査員、20名と6日間にわたって、それこそ朝から晩までの深いディスカッションを通じて多くの学びが得られる素晴らしい機会でした。ぜひ私たちもこの経験を活かして日本、アメリカ、アジアで得意先の投資に見合う効果がある、そしてオーディエンスが楽しめるブランデッドエンターテイメント制作にチャレンジしていきたいと心を新たにしています。

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鈴木 智也(すずき・ともや)
STORIES, LLC. / STORIES INTERNATIONAL, INC.
CEO
98 年博報堂入社、博報堂 DYメディアパートナーズ メディア環境研究所等で次世代メディアビジネスの研究・コンテンツプロデュース。2011 年博報堂DYグループ・セガグループなどの出資で STORIES®を設立、CEO 就任。50本以上のブランデッドエンターテイメント・CM・イベント等をクリエイティブプロデュース。現在は Marc Plat(La La Land)をパートナーに“SHINOBI”、Walking Dead プロデューサー陣と“ALTERED BEAST”等を共同開発するプロデューサーとしてハリウッド映画を企画開発進行中。プロデュースした TSUYAKO はアカデミー賞公認映画祭 3つを含む44の映画祭で受賞。プロデューサーとしてCAAとエージェント契約。USC(南カリフォルニア大学)映画大学院プロデューサー学科卒業。

Lions Entertainment 各部門のグランプリ作品はこちら。

Entertainment
SANTANDER BANK「BEYOND MONEY」(スペイン/MRM//McCANN SPAIN)

Entertainment for Music
ADIDAS ORIGINALS「ORIGINAL IS NEVER FINISHED」(アメリカ/JOHANNES LEONARD)

(注)受賞結果等は現地速報をもとにしています。最新情報はカンヌの公式ホームページでご確認ください。

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