2017年6月17日~24日、フランス・カンヌにて開催された「Cannes Lions 2017」。こちらのサイトでは、現地より連日トピックスをレポートしてきました。今回は、メディア部門でショートリスト審査員を務めたデータドリブンプラニングセンターの中澤壮吉より、受賞作品の傾向やショートリスト審査の感想などをお届けします。
■カンヌ ショートリスト審査員を初体験
世界中からエントリーが集まるカンヌライオンズ。その中でも、メディアライオンズはエントリー数が膨大です。そこでカンヌ開催期間前にショートリストを選出するため、言うなれば“予選”を行ってから現地で“本選”審査を行う仕組みが導入されています。今回は、この予選審査員=ショートリスト審査員としてカンヌに参加させていただきました。
ショートリスト審査はとてもシンプルで、割り当てられたカテゴリーのエントリー作品ひとつひとつについて、オンライン上で評点します。評価のクライテリアとウェイトは、インサイト&アイデア=30%、ストラテジー&ターゲティング=20%、エグゼキューション=20%、インパクト&リザルト=30%です。私が担当した2つのカテゴリー「Use of Ambient Media: Small Scale」と「Use of Branded Content created for Digital or Social Media」だけでも応募作品数は300を超えていて、世界のクライアントとエージェンシーのクリエイティビティと仕事への熱量を、たっぷりと感じることができました。
■37のカテゴリーにまで広がったメディアライオンズ
メディアライオンズ全体では6つのセクション(中分類)に分かれて、37ものカテゴリー(小分類)があります。多くの既存カテゴリーにおいてもデジタルやテクノロジーの活用が“当たり前”になっている現在、とりわけ「データ」で括られたセクションがあることにカンヌの正常進化ぶりを見る思いがします。この「データ」セクションにはデータドリブンインサイト、リアルタイムデータ、データドリブンターゲティングの3つのカテゴリーがあり、これらの中からも6作品がアワードを獲得しているので、是非カンヌ公式サイトで探してみてください。
■今年のメディアライオンズ受賞作品は……?
今年のメディアライオンズのショートリストには290作品が選ばれ、その中から95作品がアワード(ブロンズ以上)を獲得。ゴールドには9作品が、そしてグランプリは米国の流通小売企業JET.COMの「INNOVATING SAVING」が受賞しました。「ターゲットのソーシャルメディア利用や検索行動のインサイトを見事に突いてブランドを確立した(メディアライオンズ審査委員長談)」ことが高く評価されました。
毎年巨額の広告予算が投入され、テレビCMにも全米の注目が集まる“スーパーボール”にジョークを効かせて低予算で相乗りしたり、グーグルの自動音声変換機能にナレーションを読ませて格安でラジオCMを制作したり、フェイスブック上の「いいね!」数に応じて友達(へのプレゼント予算)に値付けしたり(自分の投稿に無反応だった友達は$0とか笑、だから余計な出費をしなくて済むというわけです)
……“saving(節約)”というブランドの約束を、彼の国らしいユーモアとともに“メディア戦略で体現した”統合メディアキャンペーンだといえるでしょう。またデータドリブンなデジタルクリエイティブやタグマネジメントなど、精緻なメディアエグゼキューションも評価のポイントだったのではないでしょうか。
もうひとつ、ゴールド受賞作品から「HUNGERITHM」を紹介します。この作品はチョコレート菓子スニッカーズのキャンペーンで、ソーシャルメディア上に現れる“怒り”をリアルタイムに計測し、その動きに合わせて販売価格を変動させるというアイデアを、メディアと流通のコラボレーションによって実現させました。
マーケティングをトランスフォームするメディア由来のデータ活用とデジタルテクノロジーの可能性を示し、様々な業種のマーケッターをモチベートする力強さを感じるこのキャンペーンの受賞カテゴリーは……前述した「データ」セクションの「Use of Real-Time Data」でした。同作品は「Use of Data Driven Insight」でもシルバーを受賞しており、メディア文脈におけるデータ活用のベスト・オブ・ベストなケースと見ることができるでしょう。(ちなみにSpikesAsia2016ではグランプリを受賞しています)
■クリエイティビティは“プロセス”にも
ショートリスト審査を通じて、また現地カンヌ滞在中ずっと考えていたことがあります。それは作品に関してというよりも、素晴らしい仕事を生む“プロセス”についてです。
これは想像するしかないのですが、クライアントとエージェンシー、エージェンシーとテック・ベンチャーなど、チームとしての“仕事のしかた”にもイノベーションがあったのではないか、と。圧倒的な環境変化が常態化している世界で困難な仕事に取り組んでいるものとして、作品への賞讃と同時に、実は“プロセス”や“仕事のしかた”におけるクリエイティビティに対しても、私たちは尊敬や憧憬の拍手を送っていたのではないかと思うのです。
初めてのショートリスト審査員の経験を通じて、インビジブルなクリエイティビティへの探究心も大いに掻き立てられました。日々もっともっとクリエイティブに仕事をしようと心に誓いつつ、また来年も「クリエイティビティの祭典」に参加できることを楽しみにしています。
◆プロフィール
中澤 壮吉(なかざわ そうきち)
データドリブンプラニングセンター センター長代理
1995年に博報堂入社。媒体、営業および統合コミュニケーションプラニング領域の経験を経て2015年より現職。DMP開発推進、データアナリティクス、メディアプラニング、デジタルマーケティング機能を統括し、メディアとマーケティングの統合~高度ソリューション化を推進している。2016年にアドフェストメディアロータス部門、ブランデッドコンテンツ&エンタテインメント・ロータス部門で審査員を務めた。
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